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ストーリー


ストーリー概要

グリーングリーンとは?

オープニング

『鐘ノ音学園と私』

二年一組 高崎祐介

僕がこの鐘ノ音学園に来て、一年が経ちます。

僕がこの学園に来た理由は、美しい緑に囲まれたこの学園で、一生懸命勉強に打ちこみたかったからです。

真っ青に染まる空。

萌える緑。

息づく森の匂い。

鐘のある校舎。

この学園に来る前の僕は、あまり勉強に熱心だったとはいえません。

学校から一歩外に出ると、そこは僕達を誘惑するものでいっぱいだったからです。

学校が終わると、ゲームセンターや友達の家で遊びほうけ、
家に帰るとテレビをずっとみている自堕落な生活を送ってしまっていました。

そんな自分を変えたくて、僕はこの学園にやってきました。

人里離れたこの学園は勉強するのにうってつけの場所だと思います。

ここで出会った素晴らしい友人たちと切羽琢磨しあい、

尊敬する先生たちのご指導のもと、

一生懸命に勉強して、鐘ノ音学園の名に恥じない、立派な学生として頑張っていきたいと思います。

終わり。

 

祐介:「こんなもんかな」
天神:「ふむふむ、素晴らしい友人達っておいどんのことでごわすか?」
祐介:「て、天神、い、いたのか?」
天神:「さっきからいたでごわす。キリサタクマロしあいなんて、祐介どんは難しい字をよく知っているでごわすな」
祐介:「それはセッサタクマって読むの」
天神:「がっはっは! なるほど! セッサタクマ! セッサタクマ!」

 いきなり大声で笑い出したのは、僕のクラスメイトの『天神泰三』だ。鹿児島出身でガハハと大声で良く笑う。
 一応柔道部に籍を置いているのだが、ほとんど練習には出てないらしい。僕達とつるんでいるほうが楽しいからだろう。
 二人で一部屋割り当てられている寮の部屋も、こいつといっしょだ。つまり、僕は朝から晩までこいつと顔を突き合わせている事になる。
 こいつの妙な九州訛りも、やたらとでかいイビキにもやっと慣れてきた。

祐介:「笑うな! 誰のおかげでこんな『鐘ノ音学園と私』なんてつまらない作文書いてると思ってるんだよ! アホのお前らのおかげじゃないか!」
天神:「ははあ、この前部屋で花火やって、祐介どんが逃げ遅れたアレでごわすな?」
祐介:「そうだよ、一番星とバッチグーとお前が、いきなり花火やりたいとか騒ぎ出して、寝ていた俺の隣で花火おっ始めた所為だろ」
天神:「すまんでごわす。あいにく、外が雨で……」
祐介:「だからって部屋でやるな! お前ら、轟が来た途端、窓から逃げやがって。逃げ遅れた俺だけが轟に見つかってめちゃくちゃ怒られて。俺寝ていただけなのに」
天神:「ほんとにすまんでごわす。でも、祐介どんに、おいどんは漢(おとこ)を見たでごわす。轟にチクらずに、仲間をかばい、自分だけその罪を引っかぶって……」
祐介:「停学の代わりに反省文と漢字書き取り一万字とこの作文提出だぞ。ああもう! わかってんのかお前ら!」
天神:「その男気、薩摩隼人もびっくりでごわす!」
一番星:「よお祐介。作文はできたか?」
祐介:「一番星……俺はお前らのおかげでな」

 この妙な長髪の名前は一番星光。やはりクラスメイトで、寮の部屋も隣同士なので、入学以来の腐れ縁だ。どこか間抜けな顔をしているくせに、僕達のグループでは一番要領がいい。
 そのうえ、悪さをしても一人バレずにうまく立ちまわるので、先生達の受けもいい。

天神:「一番星! 聞いてくれ! おいどんは、祐介どんに漢を見たでごわすよ!」
一番星:「ああうっせ。祐介、終わったら早く俺らの部屋に来いよな、バッチグーが話があるってよ」
祐介:「……一番星、俺はお前らとの付き合いを今後考える事にする」
一番星:「ああん? 寝ぼけてんのか? いいからちゃっちゃっとそんなの終わらせて早く来いよ。待ってるぜ」
祐介:「行かない。今日は寝る」
一番星:「すねるなよ。今日の夜は明日の外出日の作戦練るんだからよ。いつまでもすねてると、おいてくぞ」
天神:「おおお! いよいよ例のピンク大作戦が!」
一番星:「天神、ピンクって……」
天神:「あああ! 想像するだけでおいどんのピュアーがはじけるでごわす!」
一番星:「……祐介、とにかく部屋で待ってるぜ」

◆ ◆ ◆

天神:「祐介どん、待ってくれでごわす!」
祐介:「二時までにこの作文を轟の机の上に置いとかなきゃならないんだよ」
天神:「律儀でごわすな!」
祐介:「律儀というか……もういいよ。ん?」

 いつも使われていない教室のドアに、布がかけられている。中の椅子や机が、外に運び出されていた。

祐介:「なんだこれ? この教室って物置になってたとこだよな」
天神:「そうでごわすね。中に置いてあったものが運び出されてるみたいでごわすな」
祐介:「なにかに使うのかな」
天神:「あ、札が貼ってあるでごわすよ。女子更衣室?」
祐介:「女子更衣室? 寮母と賄いのおばちゃんしか女がいないこの学園に女子更衣室だって?」
天神:「ふーむ、きっとおばちゃん達が使うんでしょうな。賄い所の更衣室が狭い狭いって文句言ってたでごわす」
祐介:「でも、教室改造して作るほどのことじゃないと思うけど」
天神:「うーん、そこはそれ、オンナゴコロって奴なのでは?」
祐介:「はあ」
天神:「オバチャンだって、女でごわす」

 職員室はガランとしていた。誰もいない。僕は出来あがった作文を轟先生の机に置いた。轟の机は乱雑に散らかったままだった。

祐介:「轟の机はここか。相変わらず汚いな。しっかし、女がいないと先生も学生も変わらないな」

 机の上に、雑誌が置いてある。

祐介:「パパイヤ通信?あいつ、学校でこんなの広げるなよ」
祐介:「…女に飢えてんのは、先生も学生もいっしょか……」
天神:「作文、提出してきたでごわすか?」
祐介:「ああ、終わった」
天神:「轟になんか言われたでごわすか?」
祐介:「いや、いなかった。そういや職員室、ガランとしてたな。どうしたんだろう」
天神:「今日は土曜だから、皆で山登りにでも行ったんじゃ?」
祐介:「行くわけないだろ」
天神:「ま、先生には先生の事情があるでごわす。じゃあ、バッチグーと一番星の所に行くでごわすよ」
祐介:「いったい、あいつら何の話があるんだろう」
天神:「くっけっけ。それは聞いてのお楽しみでごわす。祐介どん、こんな所で青春の日々をくすぶらせて哀しくはないでごわすか?」
祐介:「しょうがないだろ。周りには何もないんだから」
天神:「祐介どん、あんなところに先生達が集まってるでごわす」

 天神が指差したのは、今は使われていない旧寮の建物だった。学生数が減ったために閉鎖されていた建物だ。

祐介:「そういや、あそこ改装してたよな。出来あがったみたいだな」
天神:「噂に聞いたでごわすが。どうやら、この学園は新たに編入生をいれるらしいでごわすよ」
祐介:「マジ? わざわざこんな山奥に編入してくる奴なんているのか?」
天神:「お互い、人のことは言えないでごわす。なんでも、学園の経営状態が思わしくないらしいでごわすよ。学生を増やして、学園の活性化を図るらしいでごわす」
祐介:「へえ。いまさら学生増やしたってこの学園が変わるとも思えないけど」
天神:「結構、学生を集めたらしいでごわす。バッチグーから聞き申した。どんな奴らなんでしょうな」
祐介:「今時、こんな山奥の全寮制男子校にくる連中だろ。大体想像できる」
天神:「どんな連中でごわすか?」
祐介:「頭のおかしい連中に決まってる」

◆ ◆ ◆

一番星:「よお、来たな。まあ座れや祐介」
祐介:「…………」
バッチグー:「あ、なんか怒ってる」
祐介:「別に怒ってない。お前達と友達ということが哀しいだけ」
一番星:「そうカッカするなって。花火のことについては謝るからよ。なあ、バッチグー」
バッチグー:「花火ぐらい問題ないっしょ。に・げ・お・く・れ・た」
バッチグー:「君が悪いっしょ」
祐介:「…………」

 この、一番星の隣に座って、とぼけたメガネをかけた奴が、僕達のグループの情報部門『バッチグー』だ。
 どこから嗅ぎ付けたものか、学校や学生の事情なんかに詳しいので便利な奴だ。伊集院忠知という堅苦しい名前を持っているのだけど、誰もそうは呼ばない。
 一年生のとき、なにかというとバッチグーっしょ! を連発したためいつしかそれがあだ名になった。最近ではあまり自分でそのセリフを言わない代わりに、他人がそう呼ぶ。

一番星:「さてと、とにかく全員そろったな。じゃあ作戦会議を始めるぜ。いいかバッチグー」
バッチグー:「OKっしょ。一番星、例の雑誌を」
一番星:「あいよ」
バッチグー:「うむ。この作戦を伝える前に!」
バッチグー:「俺はお前達に話しておきたいことがある!」
バッチグー:「ちょっと厳しい話もするが」
バッチグー:「黙って聞いてちょ」
祐介:「ちょ……」
バッチグー:「俺達は、ここに入学して以来、毎日、あるものに飢えて暮らしている」
バッチグー:「君達も知ってのとおりここには何もない。学校と、山と、木しかない。あと森。コンビニの一軒すらない。というか俺達以外人さえ住んでないっしょ!」
祐介:「うんうん」
バッチグー:「俺達は何に飢えている? 飯か? 違う! まずくても毎日食えるっしょ!」
一番星:「いいからはよ言えって」
バッチグー:「女だ! ここには女が一人もいない! 賄いのおばちゃんと寮母さんしかいない! 皆に問う? あれは女か!」
一番星:「生物学的には女ではありますが、僕達はアレを女とは見ておりません!」
バッチグー:「いい答えである一番星君。つまり、明日は日曜日である! 我々は、それを利用して女がここにいないなら、自らそれを探しに行くっしょ!」
天神:「ピンク大作戦!」
一番星:「天神、ピンクって……」
祐介:「なんだよ。作戦って、つまりはナンパか」
一番星:「祐介。ナンパって言ってもな、ただのナンパじゃないぞ。ほら、俺はここに最新のデータを用意した」
祐介:「なになに? 最新ナンパスポット? 県立中央公園噴水前がヤバイ?」
バッチグー:「ここでやると、百発百中らしい。ナンパ待ちのオンナがウヨウヨ。俺達ウハウハ。出会い、青春、キラメケトゥモウロウ」
祐介:「……ほんとか、それ?」
バッチグー:「ほんとうでっす! だって雑誌に書いてあるんだぜ?さすがにウソは書かんしょ?」
祐介:「で、基本的なことを尋ねるけど」
バッチグー:「うん。なんでも聞いてくれ」
祐介:「どうやってそこまで行くんだ? 山奥のここからふもとの駅まで車で二十分。車なんかないから、歩いて三時間。駅から街の駅まで電車で一時間」
バッチグー:「…………」
祐介:「つまり往復八時間。日曜でも夜七時の夕食までに戻ってこないといけないから、朝一で行っても向こうにいられるのはたったの二時間か三時間だろ。それでナンパできるのか?」
バッチグー:「むきー!」
祐介:「な、なに切れてんだお前」
バッチグー:「祐介なんか連れていかない! 行かないもん! それでも俺達は行くんだ! 入れ食いだぞ! 入れ食いだぞ! 入れて食うんだぞ! 行かなきゃ男がすたるっしょ!」
祐介:「く、首をしめるな」
一番星:「あはは。無理かやっぱ」
天神:「ピンク!」
轟:「なあに騒いどるんじゃあ! こんのごくつぶしどもが!」
バッチグー:「やばい、轟だ」

 寮のドアが勢い良く開けられて、ガニマタのジャージ姿の中年が入ってきた。
 この意地悪そうな面した男が、僕らの担任で、この寮の寮長も兼ねる『轟』先生だ。

轟:「お前ら、明日が日曜だからってあんま浮かれるんやないで。ええか、お前らはいつなんどきでも鐘ノ音学園の学生ということを忘れるなや」
一番星:「はい先生!」
轟:「うむ。一番星は返事がええから、先生は好きや」

 ……相変わらず調子がいいなこいつ。

祐介:「…………」
轟:「高崎、ここにいたか。お前は明日、体育館に来い。ええな?」
祐介:「ええ、なんでですか! ?」
轟:「例の花火が反省文だけで済むと思うたら大間違いや。ちょっと手伝ってもらう事があるからな」

 そう言い残すなり、轟は行ってしまった。

バッチグー:「ついてないな、祐介」
一番星:「まあ、俺達がお前の分まで楽しんできてやるからよ」
祐介:「な、なんで俺だけ……」
天神:「哀しいかな、運命でごわす」

◆ ◆ ◆

祐介:「はあ、俺だけ呼び出しかよ。せっかくの日曜だってのに」

天神を残して、先に自分の部屋に帰ってきた僕は、押入れから布団を引き出して寝転がった。

祐介:「やってられん。まだ昼だけどもう寝る」

◆ ◆ ◆

 六時半のいつもの鐘で、僕は目を覚ました。これから食堂に行って、皆と朝食をとる。そのスケジュールは日曜でも変わらない。
 隣では天神が鏡を前にして、一生懸命になにかやっている。

天神:「お、祐介どん、お目覚めでごわすか」
祐介:「お目覚めだよ。早起きだなお前。なにやってるんだ」
天神:「くふふ。だって、今日は……」
祐介:「あきれた。ほんとに行くんだ。歩くのか駅まで」
天神:「ふん、どうせここにいても寝てるだけでごわす。あ、すまんでごわす。祐介どんは轟の手伝いなのに……」
祐介:「いいよ。気にしないで楽しんでこいよ。しかし、なんだあ、お前のこの匂い?」
天神:「くふふ。一番星に借りたコロンでごわす。女イチコロ」
祐介:「お前とコロンか。別な意味でイチコロかもな」
天神:「どっちにしろイチコロで気絶してくれるならいいでごわす。殴らなくていいから」
祐介:「ナンパじゃないだろそれ」
天神:「じゃあ、行ってくるでごわす。くっけっけ」
バッチグー:「おーい行くぞ天神」
天神:「あ、待ってでごわすー!」

 体育館に行くと、一クラス分ぐらいの学生が集められていた。

轟:「よーし集まったなあ。今からおんしゃあらには学校の大掃除をしてもらう。ええか、体育館、教室、寮、食堂、とにかく隅から隅までぴっかぴかにするんやで」
男子A:「えええー、日曜なのに」
男子B:「めんどくせえ」
轟:「アホかおんしゃあら。日曜だからやるんや。平日は授業があるやんけ」
男子A:「ついてない、なんで俺らが……」
轟:「誰でもいいから、くじ引きで決めた」
男子B:「轟適当」
轟:「誰や今呼び捨てたの! わしを呼び捨てたの誰や!」
男子A:「先生いいから。早く始めましょうよ」
轟:「……うぐぅ」
男子B:「先生、質問いいですかあ?」
轟:「……なんや。言うてみい」
男子A:「どうして今日、いきなり大掃除を始めるんですか?」
轟:「うーん、お前らは黙って掃除しとればいんやが、ま、教えたろ。旧寮を改装しとったのはお前らも知っとるだろ。あそこに、編入生が入ってくるんや」
男子B:「編入生? 何人ぐらいですか?」
轟:「ふん、ようけくるらしいわ。六十人ぐらいと言うとったかな。とにかく、そいつらを綺麗な学校で迎えたろ、そういうこっちゃ」
男子A:「うわあ、物好きな連中だぜ」
男子B:「こんな監獄みたいなところにわざわざ編入?」
轟:「だまらっしゃい! おんしゃあらはじっとり黙って掃除しとけ言うとるやんけ! ワシだっていまさら編入なんて反対じゃわい! しかも、あんな連中……心配の種が増えたわ」
男子A:「どんな連中なんすか?」
轟:「いいから掃除始めい!」

 轟の怒鳴り声で、学生たちは一斉に割り当ての場所に飛んでいった。

轟:「お、高崎。きおったな。お前は特別にええ場所割り当てといた。はいバケツ。それにモップな」

 ……畜生、よりによってトイレ掃除かよ。轟の野郎、いつか殺す。はあ、しかもこんな奴といっしょだなんて……
 目の前の髪を長くたらした気味の悪い男子。同じクラスの奴で、確か名前は子安ケンタとかいったかな。でも誰もその名前では呼ばない。あだなの『毒ガス』で、全学年とおってる変な奴だ。

 いつも部屋で一人押し入れに閉じこもって何かしているという噂だ。何をしているのか誰も知らない。
毒ガスというあだなの由来は、いじめられた腹いせに、理科室から盗んだ薬を調合して毒ガスを作って復讐しようとしたことからつけられた。
でもその時、自分でそのガスを吸いこんでしまい、病院送りになった。こいつが病院から帰ってきたとき、皆してこいつのことを毒ガスと呼ぶようになった。

毒ガス:「…………」
祐介:「おい、掃除始めるぞ。ってなにやってるんだお前」
毒ガス:「…………」
祐介:「気味の悪いやつだな」
毒ガス:「…………」
祐介:「お、おい毒ガス」
毒ガス:「…………」
祐介:「早く掃除しようぜ」
毒ガス:「…………」
祐介:「?」
毒ガス:「…………」
祐介:「一人にしてくれ?」
毒ガス:「…………」
祐介:「今は一人になりたいから? そ、そうか」

 相変わらず、気味の悪い奴だ。この学園にまともな奴はいないのかよ。今ごろ、天神達はどうしてるかな……しょうがない、共同施設に行ってテレビでも見るか。
 日曜の昼間なんかに面白いテレビなんかやってるわけないな。……ちぇ、つまんねえ。

天神:「ただいま! でごわす! お、祐介どん、テレビでごわすか?」
一番星:「帰ったぜー。祐介」
祐介:「……お前ら帰ってくるの早くねえか?まだ昼じゃんよ。街に繰り出すんじゃなかったの?」
バッチグー:「お、おう……」
一番星:「駅まで歩くのは」
天神:「さすがに無理でごわした。バッチグーが……」
バッチグー:「駅は遠いな。あれ歩くのは無理っしょ。疲れた。もう歩けない。きゅう」
一番星:「う、倒れた。ったく、お前が行きたいって言ったんじゃねえかよ」
天神:「祐介どんは、何をやっていたんでごわすか?」
祐介:「学校の掃除。なんでも明日編入生が来るんだってよ」
一番星:「ああん? これ以上、こんなところに野郎詰め込んでどうすんだよ」
祐介:「知るかそんなの。学校をピカピカにするんだといって、便所掃除をやらされそうになった」
一番星:「編入生? そんであの旧寮を改装してたのか」
祐介:「らしいね」
天神:「編入生か。うむ。生意気な連中だったらワシがシメるでごわす」
一番星:「逆にシメられんなよ」
総長:「誰が誰をシメるって?」
一番星:「あ、総長」

 そこに現れたのは三年生の堀田先輩だ。こんな顔で学園の学生総長を務めている。学生総長というのは、全学生の代表だ。三年生の中から毎年一人学生総会で選ばれる。
 堀田先輩は『ケンカが強い』それだけの理由で総長に当選した。まったく、なんて学園だ。

総長:「新入りが来るらしいけど、お前らは余計なことすんなよ。あ? 俺ら三年が、とりあえず集めて仁義をしこんどくからよ。あ?」
祐介:「うっす」
天神:「飯だ飯。飯でごわすよ!」
祐介:「ほんとに飯好きだなお前」
天神:「正直、飯以外の楽しみを、おいどんはここで見つけることが出来ずにいるでごわす」
祐介:「そういうこと言うな」
天神:「事実は事実でごわす」
祐介:「……で、今日のメニューは、また塩ジャケとタマゴと納豆かよ」
天神:「文句いわんで食うでごわす」
一番星:「よう祐介、天神」
祐介:「よう一番星。あれ? お前、おかず一品だけ多くないか?」
一番星:「へへ、食堂のおばちゃんに貰ったんだよ」
祐介:「なんでよ」
一番星:「この前の外出日におみやげ買ってきて、食堂のおばちゃんにあげといたんだ。するとこうやって、お礼として一品ついたりする」
祐介:「うわ! 賄賂だ!」
一番星:「賄賂じゃねえよ。気持ちだよ。そういうのって大事だぞ。俺らの飯を作ってくれてるんだからよ」
天神:「美談でごわす!」
祐介:「ったく、お前のそういうところがそつがないっていうか、要領がいいっていうか」
一番星:「ま、気持ちだ気持ち」
祐介:「ところで、バッチグーはどうした?」
一番星:「あいつは、筋肉痛で寝てる。まったく、飯の時間終わっちまうぞ」
祐介:「馴れない運動するからだ」
一番星:「ったく、ちょっと歩いただけなのに」
天神:「おや、噂をすれば、なんか慌てて走ってきたでごわすよ?」
バッチグー:「たたた、大変だあ!」
祐介:「どうした。落ちつけ。って、お前筋肉痛じゃなかったのか?」
バッチグー:「これが落ちついていられりょか!」
一番星:「舌が回ってねえぞ」
バッチグー:「回りゃんでいい! とにかく! 急げ! 飯なんかあとでいい!」
祐介:「どうした」
バッチグー:「こっちだこっち!」
祐介:「どうしたんだよ。説明しろ」
バッチグー:「編入生がきた! バスに乗って! 今、体育館に集められてる!」
一番星:「おお、そういえば今日来るって言ってたよな」
バッチグー:「バスの入って来る音が聞こえたから、俺、さっきどんな奴がいるのかなあって、覗きに行ったんだ! そしたら! ああもう!」
バッチグー:「ここだここ! 中を見ろ! 編入生っしょ!」
一番星:「ったく、飯抜いてまで、野郎の面なんざ見たくねえよ。うお!」
祐介:「どうした一番星?」
一番星:「へへへへ、編入生って」
バッチグー:「わかったか一番星! 俺達に春がやってきた!」
天神:「ワシにも見せて欲しいでごわす。おおおお! なんとお!」
祐介:「天神が倒れた! 倒れて泡吹いてる! ごぼごぼって!」
バッチグー:「天神なんかほっとけ祐介! いいからお前も窓から覗いてみろ!」

 僕は言われたとおりに、体育館の中を覗きこんだ。

祐介:「う、わ……」

 僕の耳に、編入生を前にして、何やら演説をかましている校長の声が入ってきた。

校長:「ようこそ鐘ノ音学園へ。編入生の諸君。この鐘ノ音学園は創立六十年ものあいだ、英国のオールドスクールの伝統に基づく名誉ある全寮制の男子校として発展してきました」

 ……確かに編入生がくるとは聞いていた。

校長:「しかしながら、昨今は入学者数も減少し、質実、剛健を校訓とする我が校の衰退著しい。私は校長として、その現状を憂い、ここは一つ男子校という殻を脱ぎ捨て、誠の教育を目指すべく」

 ……でも、その編入生が……

校長:「ここに共学化を踏み切るべく決断いたしました!」

 ……男とは誰も言ってなかった! 

校長:「とりあえず、諸君らは、一ヶ月間の試験編入というかたちをとって、来る共学化への参考とする予定であります。それでは各自先生の指示にしたがって、女子寮の方へ向かってください」
一番星:「女だ! 女だ!」
バッチグー:「俺達の青春の始まりだ!」
天神:「おいどんのピュアーでごわす!」

 僕達は夢中になって、体育館の鉄格子に張り付いた。狭く開いた窓に、皆して一斉に張り付いたため、押し合いへしあいの大騒ぎになる。

バッチグー:「おい、押すなっしょ!」
天神:「押してるのは、どっちでごわすか!」
一番星:「俺は押してない。押してるのは祐介だ」
祐介:「俺がいつ押したよ!」

 ボロい体育館の、これまたボロい鉄格子が、嫌な軋みを立て始めた。

祐介:「おい、お前ら押すな! 鉄格子が、鉄格子が!」
一番星:「鉄より女ァ!」
祐介:「だから、お前ら押すなってば……」
一番星:「お、あれ可愛い!」
バッチグー:「どれよお!」
祐介:「そ、そんなに押したら……」
一番星:「どけ、俺がもっと女に近づくんだよ……」
バッチグー:「君らどかないと殺すよ」
天神:「ああ、もう、たまらんでごわす。すまんでごわす。暴発しそうでごわす……おいどんの股間のピュアーが!」

 その時、長年使いこまれた鐘ノ音学園の体育館の鉄格子が、その寿命を終えた。

天神:「はじけそうでごわす!」
祐介:「あ……」
バッチグー:「……入っちゃった」
一番星:「……やっちゃった」
天神:「……はじけちゃった」
祐介:「…………」
バッチグー:「…………」
一番星:「…………」
天神:「……てへり」
轟:「こりゃあ! 何をやっとるんじゃお前等は!」
バッチグー:「わ、わ、轟!」
一番星:「やっべええ!」
轟:「このごくつぶしどもが!」
バッチグー:「うひゃあ、皆逃げろ!」
女子A:「クスクスクス」
女子B:「あの人達、何かしら?」
バッチグー:「逃げろ祐介!」
一番星:「もたもたするな!」
轟:「こりゃ! 貴様ら逃げるな!」
祐介:「しまった、足が滑った!」
祐介:「ぐ、ぐは……」

轟:「ほりゃあ! ネズミ一匹捕まえた!」
一番星:「祐介が捕まったあ!」
バッチグー:「逃げろ! 奴の犠牲を無駄にするな!」
祐介:「先生ごめんなさい! あの、その、鉄格子を拭いてたんです!」
轟:「聖なる編入式に乱入しおって! 校長御自ら演説なさっているときに、どういうつもりじゃあ!」
祐介:「体育館の鉄格子を拭いていたんです!」
轟:「嘘つけ! 誰がここの鉄格子を掃除しろ言った!」
轟:「誰かと思えば高崎祐介! またお前か! この前は部屋で花火だったよな!」
女子A:「部屋で花火ですって」
女子B:「なあにそれ?」
轟:「こんの~、ごくつぶしが! 今日という今日は反省文だけじゃ済まさんでえ!」
祐介:「痛い! 痛いっす!」
轟:「余計な騒ぎを起こしおって!」
祐介:「ご、ごめんなさい!」
女子A:「クスクス、一人だけ捕まって殴られてるわよ」
女子B:「ドジな人ね」
轟:「そりゃ、愛のムチ! 愛のムチ!」
祐介:「どど、どうして、俺だけいっつも貧乏くじをひかなくちゃならないんだよ!」
バッチグー:「運命っしょ!」
一番星:「ごめんな祐介!」
天神:「後は任せたでごわす!」
祐介:「逃げるなお前等! 俺だけ……」
祐介:「置いていくなあ!」

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